「またか」と、多くの方が思ったのではないでしょうか。皆さんもご存じのとおり、トヨタ、マツダ、ホンダ、ヤマハ、スズキの自動車メーカー5社による不正が発覚し、メディアを騒がせています。この連載でも、昨年のビッグモーター社の保険不正請求問題やダイハツによる衝突試験の不正を扱ってきましたが、こうしてまた自分が深く携わる自動車業界で不正が起きてしまったことは残念でなりません。とくに今回は、日本を代表する大手自動車メーカー複数社の不正であり、その影響は計り知れません。
「品質」以上に「量産」を優先した末路
トヨタ自動車やマツダ、ホンダなど日本が世界に誇る自動車メーカーで発覚した、認証手続き不正。トヨタでは7車種、累計170万台もの車両が対象となり、不正は2014年から続いていたことが明らかになりました。国内の乗用車メーカー全体に品質不正問題が広がる中、日本車の信頼が大きく揺らいでいます。
トヨタの豊田章男会長は会見で「最終試験で問題が発覚しても短い納期でやり直すが、そこで負担があったのではと思う」と述べましたが、不正の全容把握には至っていないようです。組織の中で情報共有が進まず、自浄作用が十分に働いていない状況が浮き彫りになりました。世界で高い評価を得てきた日本車の品質が問われる事態となっています。
今回の一連の不正からは、自動車メーカー各社が法令順守より量産を優先してきた姿勢が見て取れます。開発の納期に追われ、認証手続きの基準を軽視したり、場当たり的な対応を重ねたりしてきた末の顛末といえるでしょう。
品質の高さを武器に、世界で事業を拡大していった日本の自動車メーカー。トヨタにいたっては、昨年度の利益が5兆円を超えるなど業績は絶好調でした。しかし、その陰で、現場は厳しい開発スケジュールに苦しんでいた可能性があります。不正を告発する内部通報の仕組みはあったものの、機能していなかった点も不正を長年見過ごしてきた要因の一つかもしれません。成長と品質管理のバランスを欠いた結果が、今回の事態を招いたものと考えられます。
レンタカー業界にも少なからず影響する
トヨタとマツダは6月6日、認証で不正が発覚した車種の生産を停止しました。大手自動車メーカーが一部車種の生産を停止したことで、部品メーカーなど関連企業への影響も避けられません。生産停止によって、すでに一部のサプライヤーでは減産の動きも出ているとのことです。日経新聞によれば、その数3000社以上。日本の基幹産業の中枢を担う複数企業による不正の影響は計り知れません。
もちろん、レンタカー各社にも少なからず影響してくるでしょう。とくに、今回は複数社の不正が一斉に摘発されているため、ダイハツの一件以上の影響が出るおそれがあります。すでにレンタカー車両として導入されている車種も含まれているでしょうから、利用者の選択肢が狭まることは避けられません。安全性に疑義を感じる方は、レンタルを躊躇することもあるでしょう。出荷停止が長引けば、長期的には車両の更新などにも影響が出るおそれもあります。
ダイハツの不正問題が発覚して以降、新車の提供が滞る代わりに、中古車の相場価格が大きく高騰しました。これにより、レンタカー業界では中古車市場から車両を購入する際の仕入価格の高騰に直面しています。また、不正が発覚した車種を所有するユーザーが中古車市場で車両を売却する際には、相場価格の低下が懸念されます。たとえば、100万円の価値がある車が、70万円、80万円といった金額でしか売却できなくなる事態になる可能性があります。
日本の産業を支える屋台骨となる業界の相次ぐ不正発覚の影響は、関連企業のみならず、ユーザーや我々全国民に少なからず損失を与えるものになるのではないでしょうか。広義的、長期的にみれば、ガソリンスタンド業にも影響をおよぼしかねない問題です。
自動車業界の今後に求められるのは悪しき慣習の一掃
相次ぐ自動車業界の不正を悲観するのは簡単です。それ以上に私たちがしなければならないのは、ユーザーの信頼回復とクリーンな業界作りだといえるでしょう。電動化の流れが加速し、世界的な競争が激化する中で、自動車メーカーは今まで以上にスピード感を持って変革を進めていく必要があります。しかし、スピードより大事なのは、品質です。当事者ではないものの、レンタカー会社やガソリンスタンドもまたサービスの品質向上なしに発展はないと考えています。
昨今では、自動車業界のみならず、さまざまな業界で“膿出し”が進んでいます。芸能界、宗教、政界……さまざまな不正や問題が発覚していますが、共通するのは今に始まったことではないということ。長年の悪しき慣習、個人や企業の欲望、見て見ぬふりなどが溜まりに溜まってしまったからこそ、時を経て爆発してしまっているのです。
自動車メーカー各社には、コンプライアンス意識を組織に根付かせ、開発から製造、販売に至るまでのプロセスを透明化していくことが求められますが、私たちも一連の不正発覚を反面教師とし、率先してガバナンス改革を進めなければなりません。
田川 英紀
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