昨年夏、ビッグモーター社による保険料の不正問題が明るみになったことは皆さんの記憶にも新しいのではないでしょうか。今年2月には、伊藤忠商事がビッグモーター社買収へ最終調整しているとの報道がありました。伊藤忠グループは古くから日本の自動車産業に深く関わっており、現在も中古車販売や車の整備、保険などの事業を行っています。加えて伊藤忠エネクスでは、全国のガソリンスタンド併設店を中心に「カースタレンタカー」を展開しています。
ガソリンスタンドに併設されていることの多いレンタカーとして、他にも「ニコニコレンタカー」や「ワンズレンタカー」などが挙げられます。弊社「業務レンタカー」もまた、昨今はガソリンスタンドからの引き合いが多くなっています。また、「ニッポンレンタカー」や「ガッツレンタカー」など、独立店舗中心のレンタカーも見られます。そこで今回は、レッドオーシャン化するレンタカー業界の勢力図や各社の特徴などを考察していきたいと思います。
なぜこれほどまでにレンタカー会社は多いのか
車離れや人口の減少は、レンタカー業界にとって向かい風のようにも思えますが、実はその逆。追い風になっています。というのも、車離れや人口減少によって車の「所有台数」は減少傾向にあるものの、「所有せずに利用する人」は増加しているからです。矢野経済研究所によれば、2022年3月末時点の国内のレンタカー車両台数は前年同期比で16・3%減少したといいますが、アフターコロナが本格化した22年後半からは改善に向かっており、23年以降のレンタカー車両数は増加していくものと見られています。昨今では訪日外国人が増加し、国内の個人・法人の利用ニーズも活性化されていることから、30年には1兆826億円まで市場規模は拡大する見込みです。市場規模1兆円といえば、100円ショップやおもちゃ業界と同等。近年では、新規参入も少なくありません。
レンタカー各社の特徴
レンタカー業界は、「価格帯」で2つの区分に大別されます。低価格なのは、ガッツレンタカーやニコニコレンタカー、ワンズレンタカーです。そこに、冒頭で紹介した伊藤忠グループのカースタレンタカーが16年に参入しています。カースタレンタカーは、まだまだ店舗数は少ないですが、伊藤忠グループという大きな母体があるという点で低価格帯のレンタカー会社に一石を投じる存在になる可能性があると感じています。カースタレンタカーは昨年11月、新サービス「楽のりスマート」の提供を開始しました。これは、スマートフォン1つで24時間365日予約・貸出・返却ができるといったものです。業務レンタカーも同様の仕組みを導入していますが、あくまで事前に鍵を取りに来てもらう必要があるため、この仕組みがいかに費用がかかるものかわかります。格安のレンタカー会社はメーカーや大手企業の後ろ盾がない企業も多いため、このように資金力のあるレンタカー会社は大きな脅威となるかもしれません。
一方、高価格帯のレンタカー会社には、メーカーや大手企業が母体となっているトヨタレンタカーやニッサンレンタカー、オリックスレンタカーなどが該当します。とはいえ、これらのレンタカー会社のビジネスモデルは1日、あるいは数日単位の「短期貸し出し」という点で格安のレンタカー会社と同様です。
レンタカー業界の勢力図
統計があるわけではありませんが、レンタカーの専門家という立場でお話させていただくと、価格帯の違いは事故率に比例してきます。お察しのとおり、低価格帯のレンタカーは利用者層から事故率が高く、高価格帯のレンタカーは低いという傾向があります。これは利用者の属性によるものでしょう。レンタカー会社の経費の中で、大きく変動する可能性のあるものは「保険料」です。保険料は事故率によって変動するため、低価格帯の短期のレンタカーは利益率が低いということは容易に想像できます。つまり、「数」で稼がなければならないため、貸出・返却の頻度は自ずと高くなるのです。
一方で、業務レンタカーは「低価格帯」というレッドオーシャンにいるわけですが、「長期貸し出し」という点で他社と大きく異なるビジネスモデルです。低価格でありながら、レンタルしていただく方の年齢や免許取得からの年数を制限しているため事故率も低く、保険料は業界最安値を実現しています。さらに、長期貸し出しということから貸出・返却の頻度は一般的なレンタカーを大きく下回るため、人材不足が叫ばれる昨今においても持続可能性が高いビジネスモデルだと自負しています。
ビッグモーター社の一件に加えダイハツ社の不正もあったことから、自動車業界の勢力図は今後、大きく変化する可能性があります。変化する業界の影響を受けず、成長を続けるために必要なのは、唯一無二のポジションを築くこと。これはレンタカー業界だけでなく、すべての業界に共通します。ガソリンスタンドと親和性の高いレンタカービジネスですが、企業によってビジネスモデルは異なり、必要となる人材の数や持続可能性も大きく変わってくることは認識しておくと良いでしょう。
田川 英紀
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