中古車販売会社の不正は業界にどう影響するのか【月刊ガソリンスタンド連載第7回】

車のミライ

昨今、メディアを賑わせている中古車販売会社の保険料不正請求問題。事態は保険料の不正請求に留まらず、社員の逮捕や車検やオイル交換などの整備業務における詐欺や不正の発覚にまで発展しています。芋づる式に悪しき慣習や非常識な営業手法が明るみになってしまったことによる影響は、当該中古車販売会社だけでなく、自動車業界全体に広がっていくのではないかと私は危惧しています。

当該中古車販売会社が公開している自主調査結果

 

これほどまでに自動車業界が叩かれるのは初めて

私は現在、レンタカー事業を営んでいますが、つい数年前まで、長らく中古車販売業をしていました。レンタカーも中古車を使っていますので、今も決して無縁ではありません。この業界に身を置いて約30年間になりますが、これほどまでに自動車業界が叩かれるのは初めてなのではないでしょうか。良くも悪くも、中古車業界はスポットライトを浴びずにここまで来たように思います。エコカーや電気自動車が出てきてからは、なおさらです。

国民生活センターによれば、中古車を購入した消費者からの相談件数は、毎年7千件以上にのぼるといいます。つまり、トラブルはこれまでもあったものの、明るみに出なかっただけなのです。昨年には、不正に車検を通した大手自動車メーカー系列の社員が書類送検される事件も発生しています。そんな折に降って沸いたのが、今回の問題です。これまでスポットライトが当たらなかった世界の不正や詐欺、モラハラなどのニュースが連日バンバン流れてしまっていることに対し、我々、関連業界も危機意識を持つべきでしょう。

具体的にいえば、今回の一件で中古車販売業者に不信感を抱いた消費者は「ディーラーで車を買い求めたい」という気持ちが強くなると思います。車検についても同じです。私も中古車販売業をしていたのでわかるのですが、車の販売は不動産に次いで紹介率が高い事業です。それはやはり、価格が高いということに起因しています。さらに、メカニズムや整備状況についてよく理解していない消費者がほとんどという商品でもあります。「高いし、よくわからない」ものを買ったり、メンテナンスするにあたって、消費者が欲しいのは「安心」です。今回の事件は、「安心」が不可欠な業界の信用を突き落としたという点において非常に事業者の責任は重く、当該中古車販売業者が倒産などしたところで、その影響が小さくなるとは思えません。

 

今回の一件は業界の信用を失墜させた

ガソリンスタンド経営のかたわら、中古車販売や整備事業をしている方も多いものと思います。もしかしたら、今回の一件に対して「競合他社が自滅してくれた」と思っている方もいらっしゃるかもしれません。しかし、この考えは甘いと思います。おそらく、業界の信用の失墜のほうが影響としては大きいはずだからです。今回の一件を受けて中古車販売や整備を手がける事業者が真っ先にすべきなのは、失った信用をどう取り戻すかを考えることでしょう。

私が現在でも中古車販売や整備事業を続けていたとすれば、不安を感じさせない方法で販売や整備をします。たとえば、「整備を見せる」というのも効果的だと思います。「これを変えておきました」「これを整備しておきました」といっても、消費者の多くは何が変わったのかわかりません。私は、今回の一件が起きる前からこの点について改善の余地があると思っていたのですが、整備を「見える化」するというのは消費者の信頼を勝ち取り、他社と差別化するための非常に有効な施策になるはずです。写真を撮って渡すのもいいでしょうし、整備の様子を見てもらうのもいいでしょう。実際に見るか見ないかは消費者次第ですが、「見てください」という一言だけでも安心につながるのではないでしょうか。設備投資や、お金や時間をかけたレポートを作る必要もないと思います。必要なのは、意識の改革です。

 

ピンチをチャンスに

今回の一件は、中古車販売や車の整備をしている事業者にとって大きな逆風になりかねません。しかし、この連載でも何度か申し上げているとおり、ピンチはチャンスです。中古車販売や車の整備は、これまでスポットライトを浴びなかった分、変化も少なかった業界です。だからこそ、「変わる」ことが他社との差別化の1つになり得ます。

これまでの中古車業界は、消費者がある意味「弱者」になってしまっていたように思います。今回の事件は、各事業者にとってもチャンスであり、前向きに捉えるとするならば業界にとってもチャンス。逆にいえば、不正をただし、クリーンな業界に生まれ変わるきっかけとすることができなければ、中古車業界・整備業界のミライはないのではないでしょうか。

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