今回は、自動車業界に身を置いて約30年になる私の歴史を振り返りながら、ビジネスに大切なことについてお話していきたいと思います。
「安さ」だけでは勝負できない
私は現在、マンスリーやウィークリーを中心とした「業務レンタカー」を経営していますが、19歳で自動車業界に入ってから20年以上、中古車販売をしていました。初めは一社員として営業していましたが、車好きが講じてか営業成績はすぐにトップに。当時から経営者になることを目指していましたので、お金ではなく「できる限り多くの人と話そう」「市場のニーズを知ろう」という姿勢も良かったのかもしれません。26歳のときには、中古車販売会社「カーチョイス」を設立。いよいよ経営に乗り出します。
1年目は、好調そのものでした。というのも、私は当時の中古車の「売り方」を覆したからです。覆したというと大それたことのように聞こえますが、単に「価格破壊」をしたのです。当時は、仕入れ価格に70〜80万円ほどの利益を乗せて中古車を売るのが一般的でした。一方、弊社が乗せる利益は20万円ほど。お客様からすれば、他社より50万円安く購入できるということです。今でも思っていることですが、「価格の安さ」は大きな集客力となります。「安い」というだけで、莫大な費用をかけて広告しなくても集客できるのです。
しかし、カーチョイスは2年目から苦労することになります。それは、周りの中古車屋も価格を下げ始めたからです。「安さ」で集客も営業もできなくなった弊社の収益は、大幅減。一方で、1年目で4店舗まで拡大したことで人件費や土地代は上がりました。1店舗につき3人を雇い、店を借りた場合にかかる費用は200万円ほど。20万円の利益が出る車を、最低でも10台/月は販売しなければならない計算です。さらに店舗拡大に伴う借金の返済も加わり、一気に経営難に陥ってしまったのです。
「もったいない」から始まったレンタカービジネス
自転車操業を続けていた弊社。「このままでは倒産してしまうかもしれない」という思いに暮れることもありました。そんなとき、中古車販売ではほとんど利益にならない5万円ほどで買い取れる中古車が目に留まります。5万円で買い取った車をオークションにかけて10万円で売れたとしても、出品費や手数料で利益は出ません。しかし、まだまだ綺麗で、メンテナンスが行き届いている中古車も多くあります。「もったいない」とはかねてから思っていたのですが、中古車の中でもグレードの高い車種を扱っていた弊社では販売することもなく、持て余していたのです。再利用の方法を検討して行き着いたのが、貸すこと。これが、業務レンタカーの始まりです。
最初は「1ヶ月2万9800円」という旗を自分で作り、国道沿いに置いてアピールしていただけです。これだけでも、集客効果は抜群でした。保険料込みで、1ヶ月3万円で車が借りられる。これは、当時も今も画期的です。5万円で買い取った中古車ですから、利益も出ます。「こんなに安く使わせてもらってありがとう」と、多くの方が喜んでくださいます。今でいうSDGs精神が、弊社を救う大きなきっかけとなったのです。
業務レンタカーの魅力
中古車販売の失敗から「価格」だけで勝負することはできないと悟り、加えて店の「土地代」と「人件費」に苦しんだ私は、かねてから価格を抑えたうえで土地代も人件費も抑えられるビジネスをしたいと考えていました。業務レンタカーは、まさにこの3つを兼ね揃えている事業です。
- 1ヶ月2万6400円〜という日本一の安さ
- 4つの特許を取得した車両貸出・返却・管理システムでワンオペ営業を可能に
- 稼働率80%という長期レンタカーならではの在庫数の少なさから最低限の土地の広さで経営できる
2016年からは、中古車販売の傍らで行っていたレンタカービジネスをメインとした事業を開始。業務レンタカーはこの3つの強みを武器に、わずか6年間でフランチャイズ店含め全国22店舗にまで拡大しました。
何より、業務レンタカーに魅力を感じているのは私自身かもしれません。私はこれまで、自分の存在意義について考えることがしばしばありました。営業成績No.1になった。経営者にもなった。……しかし、どこか満たされない気持ちがあったのです。というのも、中古車販売は車自体に価値があります。私じゃなくても、中古車は売れます。そして、売ったら終わり。販売とは、一期一会の商売なのです。しかし、業務レンタカーは「貸す」というサービスを提供していることから、お客様と長くお付き合いできます。毎日のように、お客様からの感謝の言葉が私の元に届きます。
どんな商売であっても、顧客に多角的な価値を提供し、自らも価値を感じられることが最も大切です。綺麗事のように聞こえるかもしれませんが、人生の大部分を占める「働く」ことにおいて、やりがいや価値を見出すのは当たり前のことでしょう。紆余曲折ありながらも、たどり着いた業務レンタカーというビジネス。このビジネスを広げ、多くのお客様と業務レンタカーに携わる人とその家族を豊かにすることが今の私の夢です。
田川 英紀
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